AHEAD MIZUNO RUNNING MAGAZINE 04

BEYOND THE WALL

サブ3の壁を越えたランナーたちの
トレーニング法とレース戦略を聞
市民ランナーの憧れと言われるサブ3(フルマラソンで3時間を切ってゴールすること)の称号。自分の周囲でも3時間2分43秒、3時間1分32秒というように、あと少しで3時間を切れなかったというランナーは少なくなく、達成したランナーは全体の約3%しかいない。そんなサブ3ランナー2人に、達成時のトレーニング方法やレース戦略を聞いてみた。

「いつでも10㎞走れるコーディネートを心がけています」と語る牧野英明さん。彼の足元はいつもランニングシューズだ。ファッション業界を代表するスタイリッシュなランナーであり、各種メディアに頻繁に登場していることでも知られる。日本を代表するファッションカンパニーのひとつである株式会社ビームスに所属しており、社内の有志によるビームスランクラブの中心メンバーでもある。

そんな牧野さんは2018年の東京マラソンを2時間52分06秒で走り、見事サブ3を達成。翌年の同大会では2時間49分01秒まで記録を伸ばした。「中学、高校時代に陸上部で、800mを走っていたのですが、当時はあまり真剣に練習に臨むことができず、記録は2分00秒で、高校総体の栃木県予選で準決勝止まりでした」と語るが、「2008年の第2回東京マラソンに興味本位でエントリーしたことで、再び走るようになりました。練習では10㎞ちょっとしか走らなかったにもかかわらず4時間30分くらいで無事完走できたこともあって、そこからフルマラソンのハードルが一気に下がったと同時に、走ることの楽しさを感じられ、徐々にランニングにハマっていきました」という。そしてフイナムランニングなどで走るようになり、フルマラソンのベスト記録を聞かれるようになったのをきっかけにタイムも狙ってみようと思い、2016年の第10回東京マラソンを3時間09分台で完走。「サブ3が見えてきたなぁ」と思うようになったという。しかしながら板橋、さいたま、つくばといった大会で失敗してサブ3の達成はならず。前述のように2018年の東京マラソンで念願のサブ3を達成する。

「前日の夕食はミートスパゲティ。これは陸上部時代からの勝負飯です。睡眠は9時に寝て3時に起きましたが、よく眠ることができ、4時台の電車で東京に向かいました。当日の朝ごはんはコンビニのロールケーキ。炭水化物に油分が加わると、着火剤としてエネルギーに変化しやすいということを聞いて選びました」というように前日からスタートまでを過ごすと、スタート後は「サブスリーの設定タイム4分15秒を目安にいかにラクに走れるかを意識。最初の5kmを過ぎたところで、設定タイムよりも速いペースなのにかなり余裕があったため、感覚に任せてそのままペースアップしました。その感覚のまま35キロまで行けちゃった感じです。レース中の栄養補給はスズメバチ由来のサプリメントをメインに活用。いいお値段なんですが、しっかりと効果があったと思います(笑)。さすがに残り7kmは辛かったですが、その日履いていたシューズの推進力のおかげもあって、最後までしっかり走り切ることができました」と、サブ3達成時のレース展開を教えてくれた。

サブ3を目指すランナーが知りたいと思うであろうトレーニング内容を聞くと「月間走行距離は250kmほど、インターバルなどの高強度トレはもちろん入れていましたが、それよりも大事だったのがフォームの改善。失敗レースではふくらはぎが痙攣したことが示していたように『脚を極端に使ってしまう走り』になっていました。そこを修正すべく、重心に乗る走り方を曲がりなりにも習得。サブ3達成時は俗に言うところの厚底シューズを履いていましたが、練習でも同様のシューズを履いて、走りを靴に合わせることで、本番でも上手く使いこなすことができました」と、牧野さんのサブ3達成にはトレーニングと同様にシューズの機能性が重要であったことを語ってくれた。

普段の食に関しては「バランスのよい食事を前よりも意識するようにはなりましたが、走った後のビールとジャンクフードの誘惑には当分勝てそうにありません」と笑う。今後の目標に関しては「近いところでは小規模のトラック競技記録会に参加して1500mと3000mの自己ベスト更新にチャレンジしようと思っています。あとは準エリート推薦を受けている東京マラソン2021にもし出場できれば、そこで2時間40分を目指します。最近、様々な走りの技術を習得して効率的なランができるようになったので、ぜひとも実現したいと思っています。トレイルの100kmや100マイルにもいつかチャレンジしたいです」という。

最近はSNSなどでシューズレビューを執筆するなど、各ブランドからの信頼も厚い牧野さんに、ウエーブ デュエル ネオを履いてみての感想を聞くと「中距離からフルマラソンまで走る自分にとっては、シューズの履き分けはかなり大事だと思っています。このシューズはミッドソールの反発性が高いですが、アウトソールのグリップ性も高く、アウトソールを転がすのではなく、どちらかいうと自分の脚力で走る感覚。主にスピードを出す短い距離に使用したいと思っており、走力の向上に貢献してくれそう。 ショートのインターバルトレーニングなどで使ってみたいです。沢⼭レースが開催されるようになったら、このシューズでフルマラソンも⾛って、どんな結果になるかが楽しみです。」とのこと。「これまでの人生で、ここまで真剣に練習したことはなかったです!」と、走ることを楽しみつつ日々切磋琢磨することも忘れていない牧野さんは、大人になってからでも記録を向上させることができることを証明している。いくつになっても前へ踏み出すことの大切さを教えられた気がした。

フルマラソンにおけるサブ3ランナーの比率は、ソースによって異なるが、概ね3%程度であると言われている。しかしながら女性に限定すると、その比率はもっと低くなり1%台。モデルとしてあらゆるジャンルで活躍するジェニファーさんも、そのような難関をクリアしたランナーのひとりである。「走り始めたきっかけは5歳のときにタイに引っ越して、現地のインターナショナルスクールで休み時間でかけっこしているとき、『男の子に勝ちたい!』と強く思ってから。それ以来、走ることに興味を持ちました。日本の小学校でも体育や運動会も大好きでしたが、本格的にスポーツとして走ることになるのは、中学2年のときにアメリカのシアトルでクラブに入ってからです。日本に戻ってからもインターナショナルスクールの4年間は、秋はクロスカントリー、冬はバスケットボール、途中からフィールドホッケーをプレーしまして、春は陸上競技でした。元々クロスカントリーを始めたのは、バスケットボールのための脚力強化の意味合いが強かったのですが、いつの間にか走ること自体が大好きになり、大学でもクロスカントリーや陸上競技は続けました」と、ランニングとの出会いを教えてくれた。フルマラソンを始めて走ったのは2017年の名古屋ウィメンズマラソン。30kmの練習を一度しかできなくて、全身が筋肉痛になり3時間44分16秒でゴール。3時間30分切りを狙っていたが、レースの少し前に自転車で転んで鎖骨を折るアクシデントがあったことから、練習は十分ではなかったという。翌年の同大会は、3時間22分37秒で完走し、サブ3.5を達成。Boston Qualify、通称BQと呼ばれる年齢別に設定された基準タイムをクリアし、ボストンマラソンの出走を決めた。「サブ3を目指そうと思ったのは、大阪国際女子マラソンの出走権をハーフマラソンのタイムでクリアすると、2019年に3時間01分25秒の好タイムでゴールできたからですね」と語り、2020年の同大会において2時間58分47秒でゴールし、見事サブ3を達成した。

サブ3達成までの軌跡が気になるところだが、まず前日からスタートまでの過ごし方を聞いてみると、「前日は朝2Kmスロージョグのあと、大阪に向かいました。夜は石焼ビビンパ。これは私にとってのレース前日の定番メニューなんです。11時頃に就寝、大阪国際女子マラソンは12時スタートと、スタートが遅いのがありがたいです。ぐっすり眠れました。朝食はおにぎりと豆大福。スペシャルドリンクを預けに行った後、3時間前にベーグルとピーナッツジャム、2時間前にバナナ、あとはスタートまで最近流行の高濃度炭水化物ドリンクを少しずつ飲みながら過ごしました」とのこと。そして意外だったのが、当日の体調がベストではなかったということ。「実はコンディションに関しては、あまりよくなかったのです。大阪国際女子マラソンの2週間前にハーフマラソンを走り、自己記録を更新する1時間24分台で走れたのですが、お尻の筋肉が固くなって、レースに出るか迷うほど。スタート後も10Km時点で臀部の筋肉の張りを感じながら走りました。Km/4分15秒でラップを刻めばサブ3を達成できるのですが、ハーフまでは4分10秒前後で走ることができ、少し貯金。レース中の栄養補給に関しては高濃度炭水化物ドリンクと同ブランドのジェルを10Kmから5Km毎に交互に摂取しました。25Kmあたりでペースが少し落ちてきたのですが、周囲のランナーの多くが同じカーボン入りシューズばかり履いているのを見て、『私は、その靴を履いていなくてもサブ3達成してやる!』とスイッチが入りました(笑)。30Km過ぎに2Kmくらいラップが4分30秒くらいに落ちたものの、なんとか持ちこたえて、念願のサブ3を達成することができました」

見事サブ3を達成することができたジェニファーさんのトレーニングは、「レースまでに30Km走は3回ほど、日々のトレーニングの距離はバラバラで、週末の土日どちらかにハーフ(21.0975km)以上のロングを入れ、週に1回はトラックでスピード練習。ファルトレク(スピードの変化をつけながら走るトレーニング)やヒルリピート(100~300m程度の登り坂と下り坂の往復を繰り返す)を取り入れるなど、トレーニングが単調にならないように気を付けました。これは大学時代のメニューを応用しています。あとスクワットのような補助運動で、走りに必要な筋力を強化したり、どちらかいうと身体が固いので、ストレッチもこれまで以上にしっかりやるようにしたことが、サブ3達成につながったと思います」とのこと。
また食に関しては、「大学時代は、週90Kmは走っていて、今は週70~80kmなんですが、食べる量は今も同じくらい。回復のためにはしっかり食べることが不可欠です。たんぱく質も大事ですが、炭水化物もちゃんと摂取しないと回復しにくいですね。炭水化物はパスタやオートミールで。特に昔からオートミールが好きで、甘いものは自分からは買わないようにしています。大学時代はレース期間中に甘いモノ、揚げ物、アルコールは一切禁止にしていましたが。今は、揚げ物はあれば食べちゃいます。バナナブレッドやズッキーニブレッドが好きで、はちみつをかけるとさらに美味しくなります。糖分は制限しませんが、白糖は避けるようにしています。自炊が大好きなので、外食は週に1回程度。自分が何を食べているかを知っているということは、やっぱり安心できますよね」と教えてくれた。何事も制限しすぎると継続しにくいものだが、彼女の食に対するスタンスなら、参考にしたいと思うランナーも多いだろう。

そんなジェニファーさんの次の目標を聞くと「フルマラソンへのエントリーはいったんお休みして、ハーフマラソンの自己記録更新を目指したいと思います。今以上にスピードを身につけないとフルマラソンでのPB更新は難しいので。あとは最近海沿いに引っ越したこともあるので、近い将来はトライアスロンにもチャレンジしたいですね」という。今回トライしたウエーブ デュエル ネオの走り心地を聞くと「トラックで練習するときに履いていますが、アウトソールのグリップ性が凄く、反発性も優れているので、これまでのシューズよりもスピードに乗って走れます。このシューズはハーフマラソンの自己記録更新に大きく更新してくれそうです」とコメント。実はジェニファーさんが去年と今年の大阪国際女子マラソンを始めとした各レースで履いていたのは同じシューズで、彼女の足形にフィットしたお気に入りの1足。しかしながら一般的にはサブ3.5~サブ4レベルに向くと言われているシューズなだけに、周囲のランナーからは「シューズを替えたらもっと速く走れるかも!?」と言われたことも少なくなかったという。ウエーブ デュエル ネオという新たな武器を手に入れた彼女の今後の走りに注目したい。

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