ゴールの瞬間に最高の達成感を感じるために

パラ陸上競技選手
髙桑 早生 Saki Takakuwa(NTT東日本)

その“一瞬”があるから、辛いトレーニングも耐えられる

パラスポーツの中でも注目度が高いパラ陸上競技。髙桑早生選手は、2012年のロンドン、2016年のリオにも出場した女子トップパラ陸上選手です。義足T64クラスの100m、200m、そして走り幅跳びで、屈指の実力を誇る髙桑選手が、選手人生で初めて感じた壁は2012年に出場したロンドンの大会でした。もちろんできる限りの予測や準備をして現地に向かったものの、そこにはまったく想像できない世界が広がっていたといいます。
「初めての世界トップの大会ということもあり、初出場の勢いしか持ち合わせていなかった当時の私では、太刀打ちできない世界が広がっていました。スピード感、雰囲気、すべてが自分にとって新しい情報で『自分にはまだ何もないんだ』と思い知らされたんです。大会を終えた時『次は勢いだけじゃなく、正しい準備をしなければ』と考えていました」
世界的な大会に出場したからこそ感じた壁。大会後、その壁を乗りこえる原動力となったのは、競技者なら誰もが憧れ、快感を感じる“一瞬”でした。
「競技者には、辛いトレーニングが報われたり、競技をやっていて良かったと実感する瞬間が必ずあります。私は短距離走者なので、自己ベストの記録が出たり、トップでゴールラインを越える一瞬がまさにそれ。私自身は競技に取り組む価値をその一瞬に見出している、と言っても過言ではないくらいなので、その瞬間への想いが力になりました」

すべての人が自由にスポーツを選び楽しめる社会を

パラアスリートとして日々厳しいトレーニングに取り組む髙桑選手ですが、フィールド以外の場所でも競技のことを考えるそうです。
「トレーニング中にうまくいかなかったことを自宅に持ち帰り、ビデオを見ながら考えたりします。しかし、四六時中競技のことを考えているのではなく、自分で納得できた瞬間に競技のことは頭の中からパッと消すようにしています。自分の心の中にスイッチがある感じでしょうか」
競技と向き合う時間を、場所ではなく心のスイッチで切り替えるようになったのは、自身の性格を考えてのことだといいます。
「何事も考えすぎてしまう性格で、頭の中のリセットが必要なタイプなんです。スイッチのように切り替えながら過ごす方が、良いアイディアや自分の中の答えを出しやすいみたいです」
これからも世界の大舞台をめざして、競技に全力を尽くしたいと語る髙桑選手。
「ようやくパラスポーツが一般の皆さんにも認知されつつあります。これをさらに広げ、すべての人が自由にスポーツを選び楽しめる社会にしたいですし、私の走りがその一助となれば嬉しいです」
さらに「競技者として第一線を退いたあとも、パラスポーツに関わり続けたい」とも。
「私のように義足を装着して競技に取り組むことは、身体的にも金銭的にも大きな壁があります。少しずつ壁の高さは低くなっていますが、もっと気軽に始められるような環境づくりのお手伝いをしたい。将来的にそんな機会をいただければ、ぜひやってみたいですね」

REACH BEYOND ITEM

スポーツ義足用板バネ「KATANAΣ」

大胆な“孔”とカラーリングに、チャレンジ精神を感じた

髙桑選手にとって、身体の一部とも言える義足。競技用義足を目にする機会が多い髙桑選手でも、スポーツ義足用板バネ「KATANAΣ」のカラーリングと形状には目を惹いたといいます。「板バネに孔を開ければ空気抵抗や軽さの面で有利だって、選手でも何となくわかります。でも、何かしらの理由でどのメーカーも製品化できなかった。それを実現したのがすごい。見た瞬間『この孔は開発者の挑戦の賜物なんだろうな』と感じました」と髙桑選手。