自分を試して乗り越える積み重ねが、限界を突破させてくれる

プロボクシング選手
井上 尚弥 Naoya Inoue(大橋ボクシングジム)

同じ練習の中で変えていく、臨み方が大事

向かうところ敵なしの王者が何度も繰り返したのは「積み重ね」という言葉だった。プロボクシングの世界王者である井上尚弥選手は、アマチュア時代に史上初の7冠を達成。プロ入り後も多くの記録を塗り替えて次々にタイトルを獲得し、3階級を制覇。2019年には同階級の他団体王者が集ったトーナメント戦も優勝して世界に名を轟かせました。高いハードルを超え続ける井上選手は「目標を持つことも大事ですけど、そこに向かう前に、毎日必ずやらないといけないことがあって、そこを一番大事にしています」と言います。
こだわっているのは、日々の練習の中で神経を研ぎ澄ませ、感じ、考えながら臨み方を変えていくこと。その日のコンディションに合わせて、自分がやるべきことを見つけています。
「どの瞬間が特別ということでなく、積み重ねが常にヤマ場をクリアさせていっているという状況です。なにか無理をしてやろうとは考えていません。普段のトレーニングの内容自体は、ほぼ同じです。何を変えるかと言えば、自分の考え。例えば、今日は身体を重く感じるから、足を使わずに接近戦の練習として行おうとか、1日2時間のジムワークの中で、与えられたメニューを漠然とやるのではなく、毎日、どう感じて、何を変えるかが成長のために必要だと思っています」
減量も付き物となるボクサーは、ストイックなイメージが強いものですが、意外にも練習をすっぱりと止める日もあります。
「割とスパッとやめちゃいます。考えがうまくいかないときに練習をしても、分からなくなってストレスを感じるだけ。日常の生活に戻って次の日にスタートすれば、本来のスタイルに戻っていることが多いので、無理はしません。体力勝負の部分もありますけど、休まずにやれば勝つというものでもないです。特にボクシングでは、わずか一瞬でどちらがキレのある動きをできるかが大事なので、自分と向き合ってやっています」

「まだ、できた」と思う自分を残さない
ように、自分と向き合う

誰にでもイメージしやすいのは、圧倒的な練習量が強さを支えてくれるという構図ですが、井上選手は、こなした量よりも「自分との向き合い方」をより重視しています。きっかけになったのは、2012年の経験です。アマチュア時代に18歳で20代後半の大人に挑み、惜しくもアジア最終予選決勝で敗れて世界大会の出場を逃した試合でした。
「もっと考えて練習をやったら勝てたなという感覚がありました。それからは、日々、どれだけ自分を追い込めたか、まだできたなという自分を残したくないと思うようになりました」
高い目標を超えるための自分でいられたか。井上選手は、努力の過程で自分に問いかけています。次の試合に勝つために、何が必要か気付けるか。それをできたかどうか。日々の練習の中で常に考えることで、同じ練習メニューも新しいチャレンジとなり、進化につながっています。右目の奥を骨折しても勝ち切ったトーナメント決勝戦を「右目がぼやけて右手が使えなくなって焦りましたけど、だったら左手一本で勝ってやるって思いました」と振り返った王者の強さの背景には、日々、自分が試されていると感じ、それを乗り越えようと挑む姿勢があります。
「人間ですから、怠けることもありますよ(笑)。どんなトップアスリートでも、完ぺきにストイックであり続けることは、不可能です。でも、だから、自分との向き合い方は面白いところで(試されながら)生かされていると感じます。例えば、ロードワークを休んだ日は、走った日とは違う心身の自分がいます。そうしたら、その分を午後の練習でカバーしようとか考えるわけです。練習を休んだ日も、追い込んだ日も、そういうことを楽しんでいます。その中で、日々の練習を納得してできた先に、試合で100%の力を発揮できるメンタル、自信が身につきます。だから、同じメニューでも、今、そのときのトレーニングが一番大事。試合で限界を突破するのに大事なのは、日々の積み重ねです」

REACH BEYOND ITEM

リングシューズ

ボクシングスタイルの変化に合わせて

「フットワークは、相手が違えば変えないといけないので、理想のスタイルと言えるものは、ありません。ただ、自分のボクシングスタイルが少しずつ変わって来ていて、最近は、より鋭く(相手との距離を詰める)ステップインをする練習をしています。そうすると(強い踏み込みで止まるため)足の裏にマメができやすいです。一番、刺激に敏感なところですし、シューズは、履きやすさを大事にしています」