伝統文化ならではの使命感が、花や草木を生ける力となる

華道家
池坊 専好 Senko Ikenobo(華道家元池坊)

次の世代に良い状態でバトンをつなぎたい

室町時代に成立した日本を代表する伝統文化の一つ「いけばな」の根源とされる華道家元池坊(いけのぼう)。その次期家元である池坊専好さんは、花を生けるたびに高い壁が立ちはだかる感覚になるといいます。
「大きな行事で花を生ける時は、事前に材料を集めたり構想を練ります。スムーズに当日を迎えて楽に壁を越えられる時もあれば、どうしてもうまく超えられない時もあります。しかし、いけばなは一生を通じて花や草木と向きあうものなので、そんな時でもうまく心の折り合いをつけながら、一歩ずつでも前に進むことを大切にしています」
時間や環境といった制約がある中で、いかに心と身体を集中させるかが勝負。
「アスリートの方々は、自分の精神状態や体調が結果に反映されますが、いけばなも作品に出てしまう。いけばなと向き合う時、自分を良い状態に置く難しさを毎回実感します。特に子育て中は苦労しました(笑)」
華道家として、子育て中の母として、いけばなと向き合い続けてきた池坊さん。その原動力はどこにあるのでしょうか。
「いけばなは生活文化であると同時に、伝統文化でもあります。最高のパフォーマンスで作品を残したいというのはもちろんですが、それ以上に伝統文化の面から少しでも良い状態で次の世代にバトンを渡したいという気持ちがあり、それが大きなモチベーションになっています」

技術よりも感性や好奇心を刺激する機会でありたい

「いけばなとは『仕事だけど仕事じゃない』、そんな感覚で向きあっています」と語る池坊さんにとって、オンとオフは密接に関連していて、オフの経験は作品にも反映されるそう。
「オフタイムに出会った人や経験は自身の成長につながりますし、その成長がいけばなに反映されます。パッと気持ちを切り替えるのが得意じゃないというのもありますが」
最近は若い男性や海外の国々の人など、多種多様な人々がいけばなに親しんでおり、その数は着実に増えているそうです。
「若手華道男子グループの『IKENOBOYS』や高校生が腕を競う『花の甲子園』など、若い人たち向けの情報も積極的に発信しています。最初は美しく生けるテクニックよりも、対象とする花や草木に対して『この花がきれい』とか『この花の名前は何だろう』など、生命の息吹を感じつつ感性や好奇心が刺激される機会になればいいと思っています。そこから華道を好きになってくれれば嬉しいですね」
花や草木という有機物を用いて作品を作るいけばなは、世界中に愛好者が存在するなど国際化が進んでいますが、だからこそ次のステップをめざしたい、と池坊さん。
「『一人ひとりがいきいきと力を発揮する場』という部分で、オリンピック・パラリンピックといけばなは近しさを感じます。今後も、造形美の根底に流れる『いのちをいかす』という池坊いけばなの精神や哲学をさらに世界に伝えていきたいです」

REACH BEYOND ITEM

花鋏(はなばさみ)

あくまで自身を表現するための“道具”

華道家として不可欠な花鋏。普段左利きの池坊さんが使うのはもちろん左利き用。しかし、子どもの頃は、ずっと右利き用の花鋏を左手で使っていたので右利き用も使えるそう。ご自身は、道具に対するこだわりがあまりないのだとか。
「アスリートの皆さんも同じだと思いますが、本当の宝物は『自分の身についたもの』。花鋏はいけばなに欠かせませんが、あくまで身についたものを表現するための“道具”だと考えています」と池坊さん。