“よく飛び、よく回る”ボールが打てるラバーをめざして探求を続ける

卓球用具開発担当
樋口 直矢 Naoya Higuchi(ミズノ)

他競技のノウハウも活用して立てた『開発の軸』

「卓球用ラバーに関してはミズノは後発。市場シェアトップの製品が持つ反発力や回転量などの性能に対して『追いつけ、追い越せ』を合言葉にやって来て、ようやく2019年に『Q5』で追いついたという実感があります」と語るのは、卓球用ラバーの企画開発担当者の樋口直矢。ミズノがラバーの自社開発をスタートさせたのは2015年で、それまでは製造と開発の両方をOEM先に任せていました。
「初の自社開発製品『Q3』を発売した2017年までの約2年間は、開発や量産の仕組みを作ると同時に、市場で最大シェアを持つラバーの製品評価を徹底的に行いました。そうして出た数値を開発の目標値とし、方向性を定めたんです」
ゴム製のラバー開発には化学系の知識や技術が必要ですが、製品評価にはまったく別の機械工学系の知識や技術が必要になります。そのせいか、ラバーの製品評価に取り組むメーカーは少ない、と樋口。しかし、総合スポーツメーカーのミズノらしく、他競技で培ったノウハウを活用することで正確な製品評価ができました。
「目標数値ができたことで『開発の軸』を定められました。とりあえず作ったサンプルを選手に使ってもらい、感想を聞きながら修正を繰り返して開発する方法もありますが、参考にする意見を間違うと軸がブレかねません。今回は目標を数値で定めることで、開発の軸をぶらさないよう心掛けました」
実はトップ選手が使うラバーは市販品で、同じラバーをアマチュア選手も専門店などで購入できるといいます。
「ラバーの形状は、大きく分けて2種類存在します。ひとつは打面が平滑で裏側に凹凸がある『裏ソフト』、もうひとつは打面が凹凸で裏側が平滑な『表ソフト』と呼ばれています。世界のトップ選手の約7割以上は裏ソフトを使用しており、さらにその中の7~8割の選手が、最大シェアを持つラバーを使用しています。この独占状態を崩すのが私たちの目標です」

卓球ラバーの世界を牽引する存在になることをめざす

トップ選手は、どんな要素を重視してラバーを選んでいるのでしょう。
「回転数と速度で選んでいます。よく反発してよく回転するボールを打てるラバーが選ばれます。反発が大きいほど速いボールが打てますし、速いボールほど回転量が多くないとコートインしないんです。要は、より回転させられれば、より速いボールでもコートインさせられる。ラバーでは、反発力と回転量が正義なんですよ(笑)」
最大シェアを持つラバーと同等の反発力と回転量を実現する『Q5』は、樋口が立てた開発戦略のマイルストーンではひとつの分岐点となっています。
「これまでは数値のベンチマークにより進むべき道が明確だったので開発しやすかったのですが、ここから先は新しい発想や設計で独自技術を生み出していかねばなりません。ここからが本当の勝負です」
徐々に認知も高まり、現在は全日本卓球選手権でベスト64に入る実力を備えた選手に選ばれることも増えてきたQシリーズ。世界のトップ選手が手にしてくれるまでもうひと息のところまで来ています。
「トップ選手に『試してみよう』と思ってもらうには、競合製品と同等ではダメ。何かが飛び抜けて優れていないと選んでもらえない。今はその『飛び抜けた何か』の準備を進めています」
樋口が卓球ラバー開発の担当に手を挙げたのは、元卓球選手のミズノ社員から言われた「例えば野球やテニスで、そのバットやラケットが高価か安価かなんて、素人が打球を見ても分からないでしょう?でも卓球は高価なラバーと安価なラバーで、球筋がまったく変わります。価格の差がすぐに分かりますよ」というひと言だったそう。
「ラバーって品質の差がダイレクトに球に出るんですよ。球筋も球質も全然変わるのが面白い。『Q5』は最大シェアを持つラバーに遜色ない性能を備えており、自信を持って世に送り出した製品です。今後はトップと肩を並べられるところまで成長し、ラバーの世界を牽引していきたいですね」

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