想いを相互作用させ、より選手が納得できるバットをめざす

プロ野球選手が使用するミズノの木製バットは、すべてバットクラフトマンである渡邉孝博と名和民夫の二人によって一本一本、削って作られています。今回は、お二人にバット作りにおけるお互いの存在や相乗効果、さらにはオフタイムの過ごし方などについてうかがいました。

相互理解と情報共有で、ミズノのバットをナンバーワンに

――バットを作るという仕事の中で、お互いの存在はどんな影響を与えていますか。

名和 : 同じ目的に向かって進む同志であり仲間でしょうか。でも、常に渡邉よりもうまく削りたいと思っているのでライバルでもあります。

渡邉 : 私がバット作りの担当に決まった時、すでに名和は師匠である久保田五十一名人と同じようにバットを作っていました。当時は「名和さんに追いつきたい」という目標を心の拠り所に頑張っていましたね。その後、会社の制度上は同じクラフトマンになりましたが、あくまで社内制度上の立場が同じなだけ。作業を見たり現場での話を聞くにつけ、彼から学ぶべきところや盗むべき技術は多いです。

名和 : いやいや。すでに技術は同じレベルですよ(笑)。久保田名人の引退後、渡邉と私が引き継がせていただいていますが、渡邉が来るまでは私ひとりで久保田名人の立場を引き継ぐのかな、と思っていました。でも、渡邉が来たことで「自分ひとりでミズノのバットを背負わなくてもいいんだ」と少しだけ肩の荷が軽くなったのを覚えています。

――お二人がクラフトマンとして同じ立場でバット作りに携わることは、一人の時とは何が違うのでしょうか。

名和:一人で1本のバットを削りますし、基本的にリーグで担当を分けていますから、削っている途中に話すことはありません。代わりに朝と昼に1回ずつブリーフィングの時間があるので、そこで共有すべき情報や必要事項を話します。時には時間を掛けて徹底的に話し合うこともありますね。別々に作業しますが、お互いに良いバットを作ることをめざしているので、相互理解や情報共有はとても重要です。

渡邉 : 個別の作業になるので力を合わせて作業はできませんが、ミズノのバットをナンバーワンにしたいという想いは同じですから、お互い協力しながら進めています。

名和 : めざす場所までの道のりって、一人だと近くてもなかなかたどり着けない気持ちになりますが、誰かが横にいると助け合えたり、めざす場所を近くに感じられる。一人と二人では全然違いますね。

一人よりも二人の方が、高い壁を越えられる

――二人だから越えられる壁もある、と。

渡邉 : 間違いなくありますね。名和に助けられながら壁を越えてきました。

名和 : 二人でより高い壁を越えるためにも、大切なのは情報共有。例えば、私たちはセ・リーグとパ・リーグで担当を分けていますが、リーグを越えて移籍する選手がいます。その時はバット作りの担当も移します。その時は単にデータを渡すだけではなく、実際にその選手のバット作りを実演しながら細かい注意点や感覚などを伝えます。担当が変わった後も、必要に応じて過去のヒアリング内容を改めて共有することもあります。

渡邉 : 選手と話す際に、名和から聞いた話やアイディア、意見を伝えることもありますね。私たちがめざすのは選手がより納得できるバットを提供すること。名和の知恵を自分の引き出しに入れておいて、必要に応じて選手に伝えることもあります。

名和 : 私も渡邉の経験を情報として共有し、それを色々な場面で活用させてもらっています。これは一人ではできないことです。

正反対の考え方だから、協力して良いバットを生み出せる

――オフタイムにプロ野球観戦はしますか。

名和 : 私自身ずっと野球をやってきて、今は会社の軟式野球チームに所属しています。もちろんプロ野球も観るのですが、チームや試合の勝ち負けよりも担当している選手の結果が気になりすぎて…(笑)

渡邉 : 私もテレビやスマートフォンで試合経過をチェックしますが、自分が担当する選手の成績の方が気になります。だから純粋な野球観戦とは少し違いますね。

――では、オフタイムも仕事のことばかり考えているのですか?

渡邉 : 休みの日は仕事のことを考えないようにしています。中学時代からずっとソフトテニスをしていました。でも今は子どもが剣道をしているので、その試合を見に行くのが一番のリフレッシュですね。

名和 : オンとオフという意味では、私は切り替えが下手なのかあまり境界線がないようです。車を運転している時や風呂に入っている時、さらにはトイレの時や寝る前なんかに、突然仕事のアイディアが浮かんだりするんです。本来なら休日は仕事のことを考えない方が良いはずなんですが、楽しみながら仕事をするには必要かな、と思うようにしています。仕事と休みの線をきっちり引いてしまうと、日曜日の夜に月曜日が来るのが嫌になりそうで(笑)

渡邉 : 名和は職人気質なんですよ(笑)。私はそこまでじゃないから…。そういう意味では、私たちはまったく正反対の考え方を持っているんです。これが同じ考え方だと衝突してしまう。違う考え方を持っているからこそ、お互いの意見を素直に参考にできるし、二人でうまく協力しあえているのかもしれませんね。

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「まるえ」のマーク

■ ミズノのものづくりの精神、ここにあり

名和 : 創業者の水野利八氏の口グセ「ええもん作んなはれや」を図案化した「まるえ」です。これは良い商品が良い信用、良い人間関係に通じ、さらにはみんなの豊かな暮らしにつながつという精神が込められています。

渡邉 : 久保田名人が事あるごとにおっしゃられていた「真心」です。妥協せずにやりきらないと真心は伝わりません。込めた真心がきちんと人に伝わる「ええもん」を作り続けていきたいですね。