ものづくり技術とアートの融合で最速のスポーツ義足用板バネをめざす

アーティスト 空山基 / グローバル研究開発部 宮田美文(ミズノ)

Design 空山 基

デザインは人間の能力をアップさせる

ミズノと今仙技術研究所が共同開発したスポーツ義足用板バネ『KATANAΣ(カタナシグマ)』は、遠くからでもそれとわかるインパクトを放っています。ひとつは板バネ全体がシルバーに輝き、アート作品のような存在感を放っている点(※1)、そしてもうひとつは板バネの先端中央部分にあけられた孔です。
シルバーメタリック仕上げをはじめとするデザインサポートを担当したのは、アーティストの空山基氏。板バネの曲線的造形もあって、空山氏の代表作『SEXY ROBOT』を彷彿とさせる輝きを放ちます。常に新しい分野で挑戦を続けてきた空山氏ですが、パラ陸上について調べたり聞いたりする中で気持ちが高揚していったといいます。
「デザインで関わることで何かできるかもしれない、これは暴れがいがある新しい領域だぞ、と。そしたら、がぜんファイトが湧いてきてね」
また、板バネ製作に関わるのが初めての経験というのも大きかったそう。
「初めての経験って、とても興奮するんですよ(笑)。モチベーションが上がるし、ワクワクするし、なにより達成感が大きいからね」
デザインのアドバイスをする上で意識したのは、やはり『カッコ良さ』。
「デザインは性能のひとつなんだよ。デザインが良ければ、モチベーションも能力も上がると私は信じてる。実際に選手たちは自分たちで義足に色を塗ったりシールを貼ったりして、カッコ良くしようとしてたそうなんだ。ならば、最初から全面シルバーメタリック仕上げでカッコ良くしたら喜んでもらえると考えた。だって選手自身が、カッコ良さの重要性を一番認識しているんだから」
「まだまだカッコ良くできる」と語る空山氏ですが、それには条件があるといいます。
「このデザインを見て、他メーカーがさらにデザインに力を入れるかどうか。やっぱりライバルがいないと進化しないから。もし力を入れてきたら、私ももう一度『やってやろうじゃねぇか!』という闘争心が湧いてくる(笑)。その時が来るのが楽しみだよ」

※1 シルバーメタリック仕上げは、トップ選手専用モデル

Development 宮田 美文

義足用板バネに他スポーツのノウハウを投入

ミズノのスポーツ義足用板バネの開発を担当するグローバル研究開発部の宮田美文によると、ミズノにはスポーツ選手の動きや力の分布を数値化するノウハウと、カーボンという繊細な素材を扱うノウハウの両方を備えており、スポーツ義足用板バネはミズノがさまざまな競技で培ってきたノウハウを存分に生かせる領域だといいます。この『KATANAΣ』の最大の特徴でもある板バネの孔は、宮田が以前心血を注いだ自転車開発でのアイデアをもとに生まれたものでした。
「自転車レースは時速60kmとスピードが速く、空気抵抗低減が重要です。シートを支えるシートポストの空気抵抗を下げるために、通常は1本の太いポストで支えるのを、中央部を空洞にして2本の細いポストで支える形にデザインしたことがありました。この時の経験が、今回の義足用板バネの開発に活きました」
この孔は『ウインドトンネル構造』と呼ばれ、空気抵抗を最大3割以上削減でき、さらなる速さを追求できる画期的な構造です。これに加えて、選手が最高の状態で競技に臨める体制を構築しました。
「本来、板バネと選手の身体のポジションを厳密に管理しないと、力が効率良く板バネに伝わらなくなります。しかしスポーツ義足の世界は、それをメカニックや選手の感覚だけに頼って調整していました。そこで、選手のポジションや調整具合を数値管理し、常に安定して速く走れる板バネを提供できる体制を構築したんです。ここに、スポーツのさまざまな現象を数値化するミズノ独自のノウハウが生かされています」
スポーツ義足用板バネに関わったことで、自分の仕事の価値、さらには自分の存在価値を見いだせたと語る宮田。
「これからは競技用板バネのシェアを広げるのはもちろん、培ったノウハウを高齢者向け商品などにフィードバックしていきたい。最近は、少子高齢化で一部では競技人口が減少しています。より長くスポーツを楽しめるサポートアイテムがあれば、少子高齢社会においても、スポーツの価値で社会の役に立てるかもしれない。そのお手伝いをしていきたいですね」