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伊藤友男

マイスター 伊藤友男

profile

1981年ミズノ入社。3年間ヨーロッパのワークショップで幅広く活躍し世界のトッププロから絶大な信頼を得る。現在、国内男女ツアープロを担当するクラフトマン。クラフトチームの責任者。
ヨーロッパ及び国内ツアーを担当し、ミズノテクニクスクラフトチームのトップとしてトーナメントからイベント・オーダー会・フィッティングと活動範囲は幅広い。プロの信頼も厚く、最近は次世代を担うクラフトマンの育成や社内プロジェクトにも携わり名実共にマイスターとしての地位を確立している。


そこに魂を込めてこそ、ヘッドは輝きを放つんです。

クラフトルームで作業する伊藤の眼差しは、まさに真剣そのもの。

ミズノテクニクスに勤める多くのクラフトマンやクラブフィッターたちが、「あの人だけにはかなわない」と、誰もが口を揃えて1人の男の名前を挙げる。その男の名は、伊藤友男。クラフトチームのリーダーであり、国内外のツアープロから絶大な信頼が寄せられる、ゴルフ一筋30年のベテランだ。

話を聞くと、伊藤がミズノに入社したきっかけが、なんとも面白い。学生の頃に伊藤は、アメリカのプロゴルファーが養老工場(現ミズノテクニクス)にゴルフクラブをつくりにやってくる…そんなCMをたまたまテレビで見たらしいのだが、伊藤の実家は養老工場から車で約20分ほどの距離。

「自分の家からこんな近くに、こんなすごい工場があるのか」と感銘を受け、即入社を決意したのだという。それ以前は「実はまったくゴルフに興味がなかった」と笑う伊藤だが、経験を重ねるごとに次第にゴルフという競技の、そしてモノづくりの魅力に取り憑かれていく。

「鉄の塊があればどんなヘッドで も削る自信がある」とは伊藤の弁。

「最初はいわゆる量産品、同じものを正確に仕上げるという仕事をしていたのですが、のちに別注対応のチームに移って、プロ選手の対応を始めたのがいまから18年くらい前でしょうか。でも振り返れば、あの当時はクラブづくりの難しさを、毎日痛感していた時期でもありましたね」。例えば、大先輩のクラフトマンが削ったアイアンヘッドと同じものを伊藤が削るとする。しかしヘッドの仕上がりは、仕様上はまったく同じものなのに、まったく別のものに見えたという。なぜか。伊藤はその理由を次のように語る。

「生きているヘッドと、ただ単にヘッドのカタチをしているもの、そこの差といいますか。魂を込めて削ったヘッドって、やはり表情がイキイキと輝いているんです。それに比べて自分のは…と落胆することもしばしばありました、若い頃は」。

いまでこそ「鉄の塊さえあれば、どんな形状のアイアンヘッドでも削る自信があります」と胸を張る伊藤ではあるが、当時はまさに失敗と試行錯誤の繰り返し。だが、そのような苦い思い出が、現在のクラフトマンとしての実力を磨いてくれたことも、また事実だ。

伊藤によるとヘッドの善し悪しは上から覗いただけで分かるという。

伊藤によるとアイアンヘッドはネック周りが重要であり、構えた瞬間に上からネックを見るだけで、その善し悪しが分かるという。

「アイアンを構えてネックを覗くと、いいヘッドなら自然と笑顔になれるんですよ。打つ人に安心感を与えてくれるといいますか。ところが、デザインは格好よくても出来の悪いヘッドであれば、構えた瞬間に“うわぁ、何これ”ってすぐ感じます」

そのフィーリングは、我々のような一般ゴルファーレベルでは理解することが難しい、クラフトマンとして磨き上げた感性の賜物。伊藤がプロからの絶大な評価と信頼を得る、大きな要因のひとつなのであろう。

「もちろん、いまでも勉強ばかりの日々ですよ。僕はいま手嶋多一プロと飯島茜プロの両プロを担当させてもらっていますが、この2人って実はものすごい感性の持ち主で。感性が鋭いがゆえに、クラブに対する要求も感覚的なんですね。同じバランスでもう少しだけ軽くしてほしいとか。でも、その“少し軽い”が僕にはどの程度の軽さなのか判断できない(笑)。だから、それに追いつく感覚を、僕たちクラフトマン側も磨き続けなければならない、と思っているんです」。

プロの感性に自らが一歩でも近づくために、伊藤は時間のある限りプロと接し、会話し、スイングをチェックし、そのプロのイメージをすべて吸収するための努力を欠かさない。

「そう考えると、モノづくりにゴール、終わりなんてないんでしょうね。もし僕のつくったクラブでプロが優勝したとしても、プロがそのクラブでずっと満足するかっていったら…しないでしょ?もっといいもの、もっと飛ぶクラブがあるだろう、と当然要求されますから。いわば、つねに上を目指すプロの向上心によって、僕もつねに成長させてもらっているのかもしれません」。

終業時、全員で行うフロア掃除はクラフトルームの日課でもある。伊藤の作業場であるクラフトルームの1日は、必ず掃除で終わる。これは、「汚れた職場でいいモノなどつくれない」とする伊藤の強いこだわりから始まった日課だ。
マイスターの伊藤本人が率先してほうきを握り、全員でフロアを清掃する光景。そこには一切の上下関係など、見受けられなかった。

この日の仕事を終えた伊藤は、帰宅する間際、自らが胸に秘めた思いを語った。いつか日本人のプロゴルファーにメジャー優勝を成し遂げてもらいたい。そのためにクラブでできること、自分にできることがあるならば、どんなことでも力になりたい、と。

「何年経ってもクラフトマンとしての夢は、本当に尽きませんね」。
そうつぶやくと、遠くを見つめながら伊藤は静かに、そして優しく微笑んだ。


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