その行き先は予測不可能! 取り扱い注意の魔球・ナックル

野球を見ていると、時々思いもよらぬ変化をするボールを見たことはありませんか? フォーク、カーブ、シンカーと数ある変化球の中でも、ナックルの特殊性は群を抜いています。今回は、使い手は少ないがマスターすれば強力な武器になるナックルの秘密を解き明かします。

揺れながら落ちる異次元の変化

前回に引き続き、ミズノ株式会社研究開発部・主任研究員工学博士の鳴尾丈司に話を聞きました。まずは特殊球の代表格・ナックルのメカニズムについて。

「ナックルはバッターがそれしか来ないとわかっていても打てないほど、大きく不規則な変化をします。そのため投球フォームは極端に他の球種と異なりますが、有効な武器になります。流体力学の観点から言えば、(上図左のように)縫い目がバッター側から見て左右対称にボールが飛んでいけば、(下図左のように)後流もきれいに左右対称になり、軌道はあまり変化しません。しかし、(上図右のように)縫い目が非対称になった時、後流が傾きます。そしてこれが引き金になって、不規則に変化するのです。これが変化の原因です。1秒間に1回転以下しかしなくなると、こういう現象が見られるのです。後流が傾くと、その反対方向に力が発生して、飛んでいる方向に対してある時は右側に、またある時は左側に力が働き、ボールがクネクネした動きになります」

プロの捕手でもキャッチできずにポロポロとこぼしてしまうほど変化するナックル。その威力は想像以上だ。

「一流のナックルボーラーが投げる球の回転数は、1秒間に約4分の1回転ほどです。そうすると時には1メートルもの変化が起きる場合があります。それが風の影響などによって、揺れながら不規則に変化するわけです。」

現代では希少品種の変化球

それほど驚異的なボールでありながら、なぜ日本ではナックルボーラーが少ないのか。

「もちろん技術として難しい球という前提があります。それと日本では、ナックルばかりを投げて勝利を重ねるようなナックルボールの名手がいないので、教えることができません。アメリカではナックルの名手が時代ごとに登場し、彼らに憧れたピッチャーが受け継ぐという系譜ができています。一流のナックルボーラ―が1人でも出てきたら、日本でも状況は変わるかもしれません」

模範となる投手は居なくても、ナックルを投げられるようになりたい。そう考えた場合はどうやって練習すれば良いのでしょうか。

「回転数と揺れの大きさが反比例することを理解して投げると、効果的に練習できると思います。あとは分析してフィードバックすることです。ハイスピードカメラが理想ですが、そうでなくてもビデオカメラで撮影して、どう投げた時にどのような変化をするのかを記録していくと良いですね」

習得すればバッターに対して優位に立つことができる魔球・ナックル。この無敵のボールを武器にした一線級のピッチャーの出現を待ちつつ、この摩訶不思議な球種に自ら挑戦し、変化球のメカニズムを学ぶのも面白いでしょう。