大島祐哉
とりわけ身体能力の高い彼が得意とするダイナミックなフットワークを生かしたドライブ攻撃型それが大島祐哉のプレースタイル。
だがそれだけでは、世界の壁はあまりにも大きかった。更なるフィジカル強化はもちろん、台上での繊細なテクニックと駆け引きは不可欠な要素として彼の中で滞り始め、いつしかその焦燥は、日に日に大きく膨れ上がっていった。
そんな現状を打破するべく出口の見えない技術面の向上に一心不乱に取り組んでいたそんな時、ある一人のアドバイザーからの助言が、ふと彼の足を止めた。
「ラケットが飛びすぎている、
(台上の)細かい技術が欲しいなら一度木材を試してみたら?」
しかし、選手が自分の手の延長ともいえるラケットを変えるということは、
これまで培ってきたプレースタイルそのものを構築しなおすということ、
並大抵の覚悟で通しきれるものではない。
だが、その覚悟以上のものが、世界を見据えもがき続けた彼の中で芽生えた瞬間だった。
Another story of FORTIUS FT
FORTIUS FTには開発コンセプトを実現するためのミズノ開発チームの様々な検証の成果が詰まっている。その検証内容は多岐に渡り、そこから生みだされた一本は今多くのプレイヤーに支持されている。あとがきにかえて当時のミズノ開発チームの検証内容と支持される理由のごく一部をここに記しておく。
このラケットの積層の一部には檜が使われている。もちろんいくつかの候補となった木材のひとつひとつを計測、その材料特性値から開発目標のひとつである“安定した弧線”のための「ブレードがボールを掴むような感覚」には檜シートの固有振動特性が最適だと判断した。合板用にスライスされた檜使用のラケットは「しなやかさ」が際立ち、しっとりとした打球感になる。7枚合板ラケットの特徴である「弾きの良さ」にこの檜シートの材料特性をミックスさせることで「弾き」と「安定」の二律背反が可能になると考えたのだ。
次にミズノ開発チームは檜のシートの配置について考察。様々な厚みや木目の檜シートを使い、数十にも及ぶパターンのサンプルを作成し計測と試打による検証を重ねた。そして中芯横の添芯に檜シートを配置するFORTIUS FTの積層パターンが誕生。このように採用された檜シートはボールインパクト時にしなやかにボールを包み込むような挙動を起こし、ブレード全体にも同様の動きを起こさせる。また、この挙動は木材独特のブレード全体が“鳴る”ような爽快で心地よい打球音にもつながっていることも開発データとして蓄積されている。
「鋭い弾き」と掴むような打球感からくる「安定した弧線」に「爽快な打球音」を併せ持つFORTIUS FTのブレードはこうして誕生することになる。
同時にミズノ開発チームはプレイヤーとラケットの接点であるグリップにもフォーカスする。ブレードの挙動や重量を考慮しながら最適な設計を模索、何種類ものグリップの形状や組木のパターンを試作した結論がFORTIUS FTの「横積層」と「表面処理」されたグリップである。「横積層」はラケットの重量・ブレードの挙動とあいまってさらにラケットがしなるような感覚をプラスする。そしてあえて弱めにコーティング加工されたグリップ表面がプレイヤーの手のひらにより繊細なフィーリングを伝達する。このグリップの製法とブレードとのマッチングは、ファインタッチを求めるプレイヤーのニーズに今も高い水準で応え続けている。
ミズノは卓球ラケットの開発・性能解析に、野球バットで培った長年の木材へのノウハウや総合メーカーとしての計測技術などを活かしたアプローチ手法を用いている。人の感性に頼りすぎず様々な性能を数値化していくことが、より早く選手の要求に応えることになると考えるからだ。その手法は結果としてプレイヤーの感性をより大きく満足させるプロダクトへの近道だと信じ、ミズノ開発チームは現在も検証と開発を繰り返している。