スイム 星奈津美 選手

スイム:星奈津美選手

スイム・バタフライ
女子200mバタフライ日本記録保持者、2014年 パンパシフィック水泳選手権 200mバタフライ 2位、2012年 ロンドンオリンピック 200mバタフライ 3位など

野球 工藤公康

野球:工藤公康

野球・ピッチャー(現役当時)
[現役29年間の戦績] シーズンMVP2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など。
現役時代は妻の協力のもと食生活を一から見直し、長きに渡り活躍。

元プロ野球選手で現在は解説者として活躍する工藤公康さんが、現役アスリートをゲストに迎えてクロストークを繰り広げるMIZUNO ZONE LAB特集「工藤公康のプロフェッショナルtalKING」。第2回は、2012年ロンドンオリンピックの競泳女子200mバタフライで銅メダルを獲得した星奈津美選手をゲストに迎えた。2016年リオデジャネイロオリンピックに向け、さらなる高みを目指す星選手のトレーニング方法や体調管理の工夫について話を聞いた。
星選手は、2014年8月のパンパシフィック選手権で銀メダルを獲得するなど、世界のトップスイマーとして存在感を増している。競泳は一発勝負が多く、試合当日を良いコンディションで迎えるための体調の維持・管理が欠かせない。対談では、どのように体調管理を行い、調子を合わせていくのかというテーマにも迫った。

競泳は一発勝負の試合が多く、予選や決勝に合わせてコンディションを上げていくピーキングが大切になる。そのためには、常に身体の状態を把握し続けなければならない。好成績を挙げ続けている星選手と長く現役で活躍した工藤さんには、食事への気遣いという共通点があった。

「食事管理」





<工藤>
星選手は普段から食事に気を使っているそうですね。きっかけや具体例を教えてくれますか。また、食事に注意を払うことで、どんな変化がありましたか。

<星>
きっかけは、高校生の頃に受けたアドバイスでした。当時は食べたいものを食べたいだけ食べていたので1日に4~5食という生活で体重が変化しやすい状況でした。そこで、ここ(国立スポーツ科学センター=JISS)の栄養士さんに相談したら、炭水化物が多いと体重が増えやすいので、同じ量でもお肉や野菜も食べるようにした方が体重のコントロールもしやすいと教えてくれました。また、練習後の早い時間に食事をした方が栄養素を吸収しやすいと聞き、おにぎりを練習施設まで持って行くようになりました。今は、疲労を感じているときはビタミンBが豊富な豚肉を選ぶようにするなどしています。社会人になってからは、むしろ体重が減りやすくなりました。多いときは1日で2キロほど落ちるので、減ったときはパスタやご飯など炭水化物で戻すように意識はしています。食生活を意識すると体重を一定に保つことができますので、体が重いのではないかという不安が解消されました。

<工藤>
僕が食事を気にするようになったのは、結婚をしてからです。正直に言って奥さん任せなのですが、当初は必ず15品目が食卓に並びました。ありがたいのですが、食べきるのが大変でストレスも多少ありました。そこで奥さんが考えてくれたのが「消化の良い食べ合わせ」と「消化酵素を多く使わずに済む順番」でした。食事で消化酵素を使い過ぎると、就寝中に疲労を回復するための酵素が不足します。ですから、お肉を食べるなら、食事の前にパパイヤやパイナップルなどのフルーツを食べることで、消化酵素を補うと効果的なのだそうです。この2つの工夫で最終的には、15品目が4、5品になって食べやすくなりました。食事が変わってからは調子が安定しましたし、身体の状態が良いのが分かるので、自然とストイックな状態を保つことができ、野球のことばかり考えるようになりました。体の調子だけでなく精神的な安定も得られるのは大きなメリットですね。

競泳の練習は、泳ぐばかりではない。陸での筋力トレーニングなども欠かせないものだ。星選手は腹筋やインナーマッスル、そして前腕部を特に鍛えているという。工藤さんがそのトレーニング内容について解説した。

「強化ポイントは腹筋と前腕部」





<工藤>
バタフライは、腹筋や背筋が重要な種目ではないかと思いますが、どこか特定の部位を鍛えていますか?

<星>
バタフライで泳いでいるときに上体が反ってはいけないので、背筋はあまり鍛えません。少し前かがみに背中が曲がった状態が良いので、腹筋がより大切です。腹筋のトレーニングは、寝転んで片方の脚のヒザを立てた状態で、腰を床にピタリとつけて鍛えたい下腹部に力を入れたまま、ヒザを曲げていない方の脚を上げるメニューなどをやっています(動画・写真参照)。初めは、脚を動かすと背中が浮いたり、背中を意識すると脚を動かせなかったりと大変で、ゆっくりと10回行う程度でした。

<工藤>
おそらくPNFのような神経系を刺激するトレーニングですね。仰向けに寝た状態で上げた脚を他人に前後左右へ振ってもらいます。極端に腹筋に力が入りますが、その状態でも普通の声で話せるぐらいでないといけません。力を入れた状態でも身体の動きをコントロールする練習です。泳いでいるときに上体を丸くした状態を保つためには、息継ぎで呼吸をする際にも力が入っていなければならないでしょうし、力が抜けると上体が反ってしまうはずです。

<星>
あとは、少し技術的な話ですが、腕で水をキャッチするところが課題なので、前腕部を鍛えています。腕にパドルをはめて泳いで負荷をかけたり、クライミングウォールを取り入れたりしています。本当に上手な人は足の力で登るみたいですが、私は腕ばかりが痛くなりました。泳いでいて腕が筋肉痛になったことはないのですが、クライミングの後は腕が張った状態になっているので、鍛えたい部位が鍛えられているのだと感じています。

<工藤>
どんな運動でも回数を増やしていけば筋肉痛にはなりますが、筋力や体幹のトレーニングでは、意識したところが動いているか、動かせているかという確認が大事です。星選手は、負荷の強いバタフライで腕が筋肉痛になったことがなくてオリンピックのメダルを取ったわけですよね。前腕部が強くなったら、どんな成績になるのか楽しみですね。

星選手は、後半勝負のスイマーだ。前半は体力を温存するために一定のペースで泳ぎ続ける。投球も一定のリズムが大事だという工藤さんが、リズムを保つ効果について話した。

「リズムを保つ効果」



<工藤>
私たちは、上方からの映像をテレビで見ますが、実際に試合で泳いでいるときも、同じようなイメージを持って、体のバランスを確かめながら泳ぐのでしょうか。

<星>
いいえ、泳いでいるときには、自分の体のバランスの変化などはなかなか気付くことができません。後から映像を見て、思ったより動きが重いなと思うこともあります。泳いでいるときは、ストロークを数えています。距離に対して基準としている50mで21回より多いか、少ないかという変化ぐらいしか分かりません。特にスパートをかけていない状態で、いつもよりストロークが少なければ、少ない力で前に進んでいるということになります。あと、私は後半に勝負をかけるタイプなので、試合の前半は、なるべき力を抜くように心がけています。力んでしまうと、それだけで体力を消耗してしまいます。同じリズムで動くことで、どれだけ体力を温存できるかが大切です。

<工藤>
同じリズムを続けるために一番気を使うのは、どういうところですか?

<星>
バタフライは、リズムやタイミングが大事です。水をキャッチするときにキックを打って、腕で水を掻ききった後にもう一度キックを打つという動作の連続です。私は疲れると最初のキックを打つタイミングが早くなって進まなくなるというか「泳ぎが詰まる」癖があると指摘されているので、注意しています。練習中にタイミングが合わないと思ったら、コーチに伝えて少し違う種目を泳ぐようにします。そのまま続けるとフォームが崩れてしまうからです。

工藤さんは、プロ野球のリーグ戦とは異なり、予選や決勝を一つずつ勝ち上がっていかなくてはならない競泳選手の調整方法に注目した。鍵を握っているのは、常に動きを見ているトレーナーやコーチの存在だった。

「パーソナルトレーナーの重要性」

<工藤>
競泳は一発勝負の連続ですよね。少しずつ調子を上げていくためには、コンディショニングが重要だと思います。選手自身の感覚を優先させる部分もあると思うのですが、指導者の意見との折り合いは、どうしていますか。

<星>
いつも、試合の10日前くらいから練習を軽めにして体を回復させるのですが、パンパシのときは、開催地の豪州で、回復しているはずなのに動きが軽くならず、直前まで調子が上がらずに焦りました。でも、周囲のスタッフの方が水中映像をチェックして、後半は水をキャッチするときに腕が横に逃げていると、自分では気付けない部分を教えてくれて、泳ぎを修正して試合の2、3日前に、ようやく調子が上がりました。通常は、実際に泳ぐ前に、陸上で「水中での動き」をイメージした練習をします。腕や脚でロープを体に引き寄せるトレーニングがあり、何回も繰り返すことで、水中で行うべき動きを体に刷り込ませます。いつも見て下さっているトレーナーさんの指摘通りにしていくと、感覚をつかめます。私の感覚というよりは、トレーナーさんの感覚がすごいのだと思います。折り合いという意味では、持久力強化のために練習後にはトレッドミルで3、4キロを走ることにしていますが、コーチからオーバーワーク気味だと指摘されて控えることもあります。

<工藤>
すごく良い信頼関係ですね。確かに15キロも泳いで4キロも走るとなると、オーバーワークが心配です。担当のトレーナーがいるのは心強いですね。野球は大所帯なので、チームスタッフが選手を個別に見ることは、なかなかできません。僕は現役時代にチームからトレーナーを引き抜いて、パーソナルトレーナーとして付いてもらうことで、より細かく、体のどの部位をどのように鍛えるかというところまで相談できる環境を作っていました。

星選手は、練習に集中するだけでなく、練習後には自主トレーニングを行い、競技から離れた食生活でも気を遣っている。あらゆる側面から強化を意識する姿勢に、工藤さんも「真面目でストイックな印象を受けた。息抜きができているか心配なほど」と驚いていた。世界の第一線で頂上を目指す星選手の強さの要因が垣間見えた。