バット編

松井選手がプロに入団した年、久保田マイスターはそれまでの経験からバットは短期間で仕様変更するのではなく、1シーズン通して1つの仕様のバットを使った上で評価し、翌シーズンのバットを作ることを提案した。松井選手はこれを受け入れ、2シーズン目以降は1シーズン1モデルで通した。しかも必ず、ゲームの感覚が残っているシーズン直後にミズノ養老工場を訪れ、その場でヘッドの形やグリップの感触を確かめながら、翌シーズンのバットを二人で作り上げた。これを引退するまで変わることなく実行したのである。

現役生活20年間のバットの変遷を久保田マイスターの解説をもとに紹介

1993年 金属バットとの違和感が少なく、オーソドックスな形状

1993

初めて手にする木製バットは、高校時代まで慣れ親しんだ金属バットと違和感を感じないようにそれに近い全長33.5インチと木製バットの主流である全長34インチの2種類のモデルを用意しました。シーズンに入り手にマメができると相談を受け、グリップにフレアをつけた形状に変更しました。(34インチのみ)
※フレア…グリップ位置からグリップエンドにかけてなだらかに太くなる形状

(製作エピソード)松井選手との出会いは、プロ入団発表の前日でした。高校時代の監督と一緒に、素振り練習用の竹製バットを携えて工場にみえられました。その時から松井選手とのバット作りがはじまりました。その後、5月か6月頃に手にマメができるのでグリップをアレンジできないかと相談がありました。当時はバッティング用手袋を使用していない上、ものすごい練習量だったのでマメができたのでしょう。

スペック一覧
重さ(g) 920~930
材質 アオダモ
長さ(cm) 86.5

1994年 ヘッドにボリューム感を

1994

ヘッドにボリューム感を持たせた形状に変更できないかとの相談を受けました。この形状にすると前モデルに比べてくびれができるのでヘッドバランスになりますが、問題のない範囲と判断し、採用しました。さらに前年モデルをベースにしなりを出すために全長を約5ミリ伸ばしました。

スペック一覧
重さ(g) 920~930
材質 アオダモ
長さ(cm) 87
A (mm) 55
B 35
C 24.2
D 64
E 210
F 49.5

1995年 しなりを重視し、細くシェイプ

1995

スイートエリア下部(マークプリントあたり)が細くシェイプしている形状に改良しました。バットを細くするとしなりが出るからです。さらに全長も約5ミリ伸ばしました。このモデルから徐々に長く細い仕様へと変更していきました。

(製作エピソード)細いバットはしなりが出るのですが、同じ重量でも長く細いほど体感重量が重く感じるため、体力のアップが求められます。さらにスイートエリアがバット先端寄りになり、小さくなるため高い技術が求められます。この細いバットを使いこなせるように年々、技術、体力の向上を図ることを決意されていました。

スペック一覧
重さ(g) 940~950
材質 アオダモ
長さ(cm) 87.5
A (mm) 54
B 35
C 24
D 64
E 210
F 47

1996年 グリップエンドを小さく

1996

グリップエンドが小さく、グリップにフレアがついた形状に変更しました。グリップエンドを小さくすることで小指の辺りの掛かり方が変わります。さらにフレアにすることでグリップエンド全体のボリュームが増え、同じ重量でもバット全体のバランスとしてヘッドが軽く感じるようになっています。

スペック一覧
重さ(g) 940~950
材質 アオダモ
長さ(cm) 87.5
A (mm) 53.4
B 35
C 24
D 64
E 210
F 46

1997年 全長をさらに長く

1997

グリップ位置を少し前にするために、全長を前年より15ミリ伸ばしました。松井選手のこだわりとしてグリップ左手親指側からバット先端までの長さを一定に保つためこのような仕様にしました。また前モデルと同じ重量にするために少し比重の軽い素材を採用しました。

スペック一覧
重さ(g) 940~950
材質 アオダモ
長さ(cm) 89
A (mm) 53.2
B 35.5
C 24
D 64
E 210
F 47.5

1998年 さらに細いシェイプに

1998

グリップエンドをさらに小さく、グリップも細く、スイートエリアからマークプリントあたりのシェイプも細くしました。このモデルで初めてホームラン王、打点王を獲得されました。

スペック一覧
重さ(g) 940~950
材質 アオダモ
長さ(cm) 89
A (mm) 52
B 35.5
C 23.5
D 63
E 210
F 46.5

1999年 全モデルの中で最も長く、細く、重いモデル

1999

全長、重量は変更せずにヘッドのシェイプをさらに細くしました。グリップは右手小指に引っかかりを求めて、フレアのない形状に変更しました。

スペック一覧
重さ(g) 940~950
材質 アオダモ
長さ(cm) 89
A (mm) 52
B -
C 23.5
D 62
E 210
F 45.5

2000年 大リーグ選手の握りを参考に

2000

日米野球で対戦した、大リーグのロングヒッターがグリップエンドを包み込むように握っている事に着目し、グリップエンドを大幅に変更しました。右手で包み込んで握れるように直径を4ミリ細く、形状も小さくしました。松井選手のこだわりであるグリップ左手上からバット先端までの長さが変わらないように全長を15ミリ短くしました。さらにバランスを考慮して重量も20グラム軽くしました。

スペック一覧
重さ(g) 920~930
材質 アオダモ
長さ(cm) 87.5
A (mm) 48
B -
C 23.5
D 63
E 210
F 45

2001年 さらに外を握るグリップに

2001

スペックは前年とほぼ変更はないですが、さらに外を握れるようにグリップエンドをくびれのある形状に変更しました。全長も3ミリ短くしました。

スペック一覧
重さ(g) 920~930
材質 アオダモ
長さ(cm) 87.2
A (mm) 48
B -
C 23.5
D 64
E 210
F 45

2002年 日本でプレーした最終年のモデル

2002

さらに外を握るようにグリップエンドの形状をわずかながら変更しました。重量を約10グラム軽く、全長も7ミリ短くしました。

スペック一覧
重さ(g) 915
材質 アオダモ
長さ(cm) 86.5
A (mm) 49
B -
C 23.8
D 63.5
E 210
F 44

2003年 大リーグ仕様に

2003

アメリカに戦いの場が変わることで、松井選手が求めたのは、日本の投手のきれいな軌道のストレートボールに対し、大リーグ投手の手元で微妙に変化するストレートボールにいかに対応するかということでした。
・ ギリギリまで軌道を見極めてからバットを出したいので重量を軽くする
・ 握りをグリップエンドを包み込むようにするのでなくオーソドックスな握りに戻したいのでグリップエンドの形状を変更する
・ 少しでもスイートエリアを大きくしたいのでヘッドを太くする
以上の3ポイントで改良しました。

さらに大きな変更は、日本時代に使用していたアオダモから大リーグの主流のホワイトアッシュ、メイプルにしたことです。当初は比重が軽くヘッドの太いバットを作るのにも適しているホワイトアッシュを使いましたが、アオダモに比べ目剥がれしやすく(ささくれ立ったようになる)、耐久性が劣ることがわかったため、当時大リーグで使用が増えつつあったメイプルに着目しました。メイプルはホワイトアッシュの欠点を補いつつ供給量も十分なため、松井選手に試していただいた後、最終的にメイプル変更しました。

スペック一覧
重さ(g) 905~915
材質 ホワイトアッシュ
メイプル
長さ(cm) 87.5
A (mm) 50
B -
C 23.8
D 64.5
E 210
F 47.5

2004年ー2007年 ヘッドをくり抜いた追加仕様

2004
2005
2006
2007

キャンプ中に松井選手のゲームを現地で観戦しました。その試合でホームランを打たれたのですが、試合後にそのバットを見せていただきました。その際、いつも少し詰まるという相談受け、ヘッドを少しくり抜くことを提案しました。ヘッドをくり抜くことでスイートエリアの位置が少し手元に移動するので、詰まりに対応できると考えたのです。これ以降、松井選手は1ヶ月ごとに納品する1ダースのバットのうち4本をくり抜いた仕様にすることを求められました。対戦する投手によって使い分けされていたようです。違和感のないように同じ重量にするためにくり抜いたモデルには比重の重い素材を使用しました。

スペック一覧
2004 2005 2006 2007
重さ(g) 900~910 900~910 900~910 900
材質 メイプル メイプル メイプル メイプル
長さ(cm) 86.5 86.5 86.5 86.5
A (mm) 50 50 50 50
B - - - -
C 23.5 23.5 23.5 23.5
D 66 66 66 66
E 210 210 210 210
F 46 46 46 46

2008年 グリップエンドの直径が最大のモデル

2008

グリップエンドの直径をかなり大きくしました。握りを少し前にするためです。そのため全長も5ミリ長くしました。さらに重量も900グラムを超えないようにと求められました。

スペック一覧
重さ(g) 890~920
材質 メイプル
長さ(cm) 87
A (mm) 58
B -
C 23.5
D 64
E 210
F 46

2009年ー2010年 久保田マイスターの後継者が製作

2009
2010

グリップエンドを1ミリ小さくしたのですが、これ以降引退されるまで基本的なスペック上の変更はありませんでした。しかしスペックに表れていない微妙な変更は毎年いたしました。

この年から後継者に松井選手の担当を譲りました。しかし毎シーズン終了後、対話しながら翌シーズンのバットを作る場には同席しました。最終2012年のバット作りでの対話は今となっては感慨深い思い出です。

スペック一覧
2009 2010
重さ(g) 890~920 890~920
材質 メイプル メイプル
長さ(cm) 87 87
A (mm) 57 57
B - -
C 23.5 23.5
D 64 64
E 210 210
F 46 46

2011年ー2012年 現役最終モデル

2011
2012

グリップエンドから3~4センチのところを若干細くしました。小指が掛かりやすくするためです。

スペック一覧
2011 2012
重さ(g) 890~920 890~920
材質 メイプル メイプル
長さ(cm) 87 87
A (mm) 57 57
B - -
C 23.5 23.5
D 64 64
E 210 210
F 46 46

松井秀喜 使用用具のこだわり&全スペック ミズノクラフトマンの証言