アスレティックトレーナー樺澤圭一のコンディショニングレター
<VOL.3> 2005.5.13
「誰が怪我を治すのか?」
 これまでのトレーナー活動と接骨院での業務の中で、実に多くのスポーツ選手を診てきました。思い返してみても、本当に色々な選手がいましたね。そんな中、怪我の視点から見てみると、怪我からの回復が早く、なおかつ再発を起こさない選手がいることがあります。
「絶対治してやる!」
「必ず這い上がってやる!」
そんな選手からはいつもこんな気持ちがヒシヒシと伝わってくるものです。その度に私も「ようし、俺も頑張るか!」なんて、ついつい力が入ってしまいます。
 ところが、残念ながら選手の全てがこうではありません。中には、
「何とかして下さい」
「どうして治らないんだろう?」
こんな風に、どこかひとごとで、治らないことを誰かのせいにしている選手もいるのです。こんな選手を目の当たりにすると、「おいおい、治す気あんのかよ?」と、こちらのモチベーションもかなり下がってしまいます(苦笑)。このような選手は、回復が遅く復帰しても簡単に再発を繰り返してしまう傾向があるような気がします。

 ではどうしてこういうタイプに分かれるのでしょうか?そこで今回はこの2つのタイプの選手にスポットを当て、「怪我は誰が治すのか」について考えてみたいと思います。

●怪我をした後、どうするか?
 怪我をすると、選手それぞれ胸中には様々な思いが駆け巡ることでしょう。
「どうしてやっちゃったんだろう」
「何で俺ばっかり・・・」
「もうバスケは辞める」
数えあげればきりがないかも知れません。しかし最終的には、「早く怪我を治したい」きっとこの思いにたどり着くのだと思います。スポーツ選手はスポーツをやりたくてしょうがないのですから、当たり前といえば当たり前ですね。しかし、「言うは易く、行うは難し」です。願っているばかりでは、いつまで経ってもたどり着けません。実際に行動を起こさなければ、スポーツを再開することはできないのです。
 そこで様々な行動を起こすわけですが、最近私はこの行動には大きく分けると2つのタイプがあるような気がしています。そしてこの行動の違いこそが、回復の違いをもたらすようです。そこでその2つのタイプを見てみることにしましょう。

(1)崖を登ろうとするタイプ
 まず一つ目のタイプは、険しい崖を前にして、自らその「崖を登ろうとするタイプ」です。目の前にある高く険しい崖に怖気づくこともなく、目指す場所を見据え少しずつ自ら崖を登ろうとするのです。簡単に言えば、自分で治そうとするのですね。
 この様に自分で治そうとすると何が得られるでしょうか?まずはその実際に登る過程において、「どうしたらよいか」を自分で判断できるようになります。そして「どうすれば滑り落ちないで済むか?」が自然と分かるようになります。危険なことや安全なことを身をもって経験するからです。これが再発を防ぐために重要なポイントとなります。
 この様に考えてみると、この「崖を登ろうとするタイプ」が、先ほど述べた「怪我から早く回復する選手」と言えるのではないでしょうか。つまり「自分の身体は自分で治す」というスタンスの選手が圧倒的に回復が早く、再発を起こしにくいということです。

(2)崖に背を向けるタイプ
 一方、先ほどの「崖を登ろうとするタイプ」とはある意味正反対なタイプも存在します。二つ目のタイプが「崖に背を向けるタイプ」です。目の前の高く険しい崖に恐れをなし、自分で登ることを諦めてしまうのです。(いや、自分で登ることを諦めるというよりは、崖の下に落ちていることを認めようとしていないのかもしれません。認めてしまえば怒りや悲しみが押し寄せてきて、自分をもっと苦しめてしまうからです。これについては、今後触れていきたいと思っています。)そして自分でどうすることもできないことを悟った上で辺りを見回すのです。
 「こんな自分を受け入れてくれる優しさがあって、高い崖の上まで連れて行ってくれるほどのパワーがありそうな人いないかなァ」こんな風に、「何とかしてくれる人」、すなわち「治してくれる人を探す」のです。つまり、「誰かに治してもらおう」とするのです。
 この様に、「誰かに治してもらおう」という考えになると一体どうなるでしょうか?それは、自分の身体に無頓着になってしまうのです。ことが起きたら「治してもらえばよい」という依存的な思考に陥ってしまうのですね。そして、「どうして怪我が起こったのか」「どうやって怪我が治ったのか」が理解できていないために、同じ怪我を何度も繰り返すようになってしまいます。
 この「崖に背を向けるタイプ」こそ、「怪我からの回復が遅い」選手と言えるのではないでしょうか?つまり「誰かに治してもらおう」というスタンスを持っている選手が、回復が遅く簡単に再発を起こしてしまうということです。

●発想を転換する
 「自分で崖を登ろうとするタイプ」と「崖に背を向けるタイプ」について見てきました。怪我を早く治す、再発を起こさないためには「自分で崖を登ろうとしなければならない」、つまり「自分で治そうとしなければならない」ことがお分かりいただけると思います。要するに「心構え」の問題ですね。先へ進む勇気を持って、自ら歩を進める事が大事なのです。
 ところが意欲があっても間違った知識や技術を用いては、むしろ治らないばかりでなく、悪化の一途をたどってしまう可能性があります。選手は医療分野の専門家ではありません。当然、自分で治そうと思っても限界があるのです。
 そこで重要になるのが、その選手の意欲を正しい方向へ導いてくれる人の存在です。つまりドクターやトレーナーなど医療の専門家なのです。「治してもらおうというスタンスは良くないって言ったじゃないか?」そう思われる人もいるかも知れませんね。でも、専門家のお世話になることが、全て「治してもらう」という依存に繋がるのでしょうか?
 私はそうは思いません。そこでちょっと、発想の転換をしてみると良いかもしれませんね。つまり「自分で治す事をサポートしてもらう」と考えてみるのです。要するに、アドバイザー的な存在と捉えてみるのです。医療の専門的な部分(治療など)に関しては、もちろん専門家に委ねるしかありませんが、それ以外に自分でできることは山ほどあります。その自分でできることを、適切にアドバイスしてもらった上でいざ行動に移すのです。こういうスタンスを持つことによって、自身のコンディショニング環境も変わってくると思うのですが、いかがでしょうか?

「難関を目の前にしたとき自分は・・・」
 これを一度自分に置き換えて考えてみると良いかも知れません。怪我だけではなく、バスケそのものにも通じるところがあるかもしれませんよ。
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